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近年、「お客様にモノ・サービスが到達する物流の最後の接点」を指す“ラストワンマイル”の物流サービスに大きな注目が集まっています。今回は、物流業界が抱えるラストワンマイルの課題に対して、宅配事業者、EC事業者等の荷主企業、官民連携という3つの観点でご紹介します。
EC市場の拡大によって荷物の小口化・多頻度化が進み、荷物の総量が増加しました。コロナ禍への対応として、フードデリバリーサービスやネットスーパーに代表されるリテールサービスのオンライン化が凄まじいスピードで進んでいます。また、物流を考える際には、社会インフラとしての視点も欠かすことができません。人口減少や少子高齢化が進む地方での物流サービスの確保は、地方で暮らす方の生活の質を維持するためには欠かせなくなっています。これらを背景に、ラストワンマイル物流は広く注目されるようになっているのですが、宅配事業者の視点でみると、ラストワンマイルでは以下のような課題があります。
・輸送の小口化や多頻度化にともなう荷物量の増加
・不在時の対応や再配達
・ドライバーの高齢化、人手不足
こうした問題に対応するために、国土交通省では最新の「総合物流施策大綱(2021年度~2025年度)」で、再配達率を2020年度の10%程度から、2025年度に7.5%に減らすという具体的なKPIを設定しました。足元を見ると、全国一律の緊急事態宣言により在宅率が高かった昨年4月の再配達率は8.5%と低い水準でしたが、今年4月の宅再配達率は約11.2%と前年同期比で約2.7ポイント上昇しています。
出典:国土交通省「宅配便の再配達率は約11.2%~令和3年4月の調査結果を公表~」
ライフスタイルの多様化によって、顧客である消費者はこれまで以上にサービスやモノを好きな時間に適切な手段で手に入れたいと望んでいます。これらのニーズを満たしつつ再配達率を下げるために、宅配事業者とEC事業者等の荷主企業には、宅配ボックスのさらなる普及、コンビニや駅などでの受け取り型サービスやロッカー設置の普及、デジタルを活用した効率的な配送の展開などが期待されています。
さらには、少子高齢化等を背景として過疎化が進みつつある地域では物流の効率が低下している一方、車を運転しない人の増加にともない、日用品の宅配といった生活支援サービスのニーズが高まっています。
次ページからは、宅配事業者、EC事業者等の荷主企業、官民連携それぞれで進む、ラストワンマイルの課題解決への取り組みをご紹介します。
ヤマトホールディングスは、2020年1月に経営構造改革プラン「YAMATO NEXT 100」を発表しました。その柱の一つとして挙げられているのが、「ECエコシステムの確立」です。ヤマト運輸はこの実現に向け、EC事業者向け配送商品「EAZY」および同サービスの配送パートナー「EAZY CREW」の拡充に注力しています。オンラインショップが「EAZY」を導入すると、ニーズの高まっている非対面の宅配を含む、多様な受取方法の選択肢を消費者へ提供できます。加えて「EAZY CREW」となったパートナー協力企業に対しては、ヤマトグループの資源を活用し、労働環境の向上に力を注いでいくほか、EAZY CREWが利用する宅配アプリの開発・改良から置き配の拡充、短時間の労働環境構築などを通じ、ドライバーの労働環境改善を模索しています。
日本郵便は、スタートアップ企業との共創を目指し2017年からPOST LOGITECH INNOVATION PROGRAMと呼ばれるオープンイノベーションプログラムを開催しています。このプログラムから実用化している例も出てきており、宅配や店舗配送といったラストワンマイル領域の配送に特化した自動配車システム「Loogia」の開発・提供を行うスタートアップ企業のオプティマインドとは、「ゆうパック」配送の効率化に取り組んでいます。日本郵便は、オプティマインド社の保有するルート最適化技術をこれまで全国約500局の郵便局に導入し、時間指定や停車時の「左付け」といったラストワンマイル特有の配送条件を考慮した配送ルートを自動作成できる体制を広げています。
また佐川急便も、2021年10月に「これまでアナログで行っていた集配順序の決定をシステム化することで、ドライバー業務の効率化を図っていく」という方針をオプティマインドと共同で発表しました。佐川急便が2020年に実施したLoogiaの実地検証では、ルート組み業務に要する時間を最大30分削減した上、配送業務自体にかかる時間も約60分間削減したという効果が確認されており、今後のドライバー業務負荷軽減に大きな期待が寄せられています。
日本郵便・佐川急便の両社は、物流業界の課題解決のために、企業の垣根を超えて両社のリソースを掛け合わせた協業を実現する方針を発表しており、今後、ラストワンマイル分野における新たな宅配便事業体制の構築が期待されます。
ラストワンマイルの分野は、宅配事業者のみならず、EC事業者等の荷主企業にも注目されています。多くの荷主企業では、顧客のニーズの多様化を反映させるべく、オンラインショップを開設しています。その中で、物流領域、とりわけラストワンマイル分野への知見を得た小売企業による物流領域への参入も話題になっています。ここでは、世界最大規模のスーパーマーケットチェーンである米国ウォルマートの取り組みを紹介します。
ウォルマートは、中小の小売企業に対して配送プラットフォーム「GoLocal(ゴーローカル)」の提供を、2021年末を目途に開始すると発表しています。ウォルマートは、コロナ禍を追い風にネットスーパー事業を拡充させ、ネットスーパーのシステムおよびラストワンマイルの足回りの構築を進めてきました。今回は、ネットスーパー事業のシステムや足回りをセットで他の小売企業に外販する格好です。特徴としては、ホワイトレーベル型でサービスを提供することです。つまり、顧客ブランドでのサービスの提供になるため、ウォルマートブランドの車両による配達は行わない予定です。ウォルマートの従業員のほか、ギグワーカーや他の配送会社も配送を担います。自動運転やドローン配送の技術の活用も検討していくとのことです。
社会インフラである物流サービスを持続可能なものにするため、官民連携の上、ドローン配送や自動配送ロボットの実用に向けて、着々と準備が進められています。
2021年3月9日にドローンなどの無人航空機の「有人地帯上空での補助者なし目視外飛行」(レベル4飛行)を実現するための制度整備等を主な内容とする「航空法等の一部を改正する法律案」が閣議決定され、2022年度に有人地帯での目視外飛行を実現という目標に向けて、準備が進められています。また、国土交通省からは、「ドローンを活用した荷物等配送に関するガイドラインVer2.0」が公表され、ドローン配送の実現に向けた体制や基準の整備を進めています。活用イメージとしては、陸上輸送が困難な地域で、生活物品や医薬品等の配送を想定しており、産学官が連携の上、機器の開発やルールの策定に取り組んでいます。
これまでの自動配送ロボットの実証実験は、空港や大型商業施設等の公共建物内などで行われてきましたが、2020年から公道での配送ロボットの実証実験が盛んに行われています。経済産業省は、物流業界において人手がかかるラストワンマイルで自動配送ロボットを社会実装するため、物流やロボットメーカー、情報通信といった事業者をはじめ、有識者や自治体、関係省庁等からなる官民協議会を設置しています。
ここまで、ラストワンマイルの課題に対して、国内大手の宅配事業者の取り組み例・米国小売企業の取り組み例・官民連携での取り組み例を紹介しました。それぞれの立場によって、ラストワンマイルへの取り組みの切り口が異なります。私たち三菱商事も、皆様が抱える物流課題と向き合いながら、ラストワンマイルの課題解決に挑戦しています。
最終回となる次回は、「X次流通市場の活性化」について国内外の事例とともにご紹介します。