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国内では膨大な数のアパレル製品が作られていますが、すべての製品が販売されるわけではなく廃棄となるものも少なくありません。国内消費は減少傾向にあるにもかかわらず、なぜこれほど膨大な量のアパレル廃棄が発生してしまうのでしょうか。
今回は、アパレル廃棄が起こる理由や具体的な対策についてご紹介します。
日本国内では多くのアパレル製品が生産されていますが、その多くが売れ残りなどの何らかの原因によって廃棄されています。
国内では約29億点ものアパレル製品が供給されていますが、一方で消費されている数は約14億点に過ぎず、半数程度にあたる約15億点は売れ残りによる過剰在庫となり処分を余儀なくされています。
現状、日本においては年間約100万トンの衣類が廃棄されており、「シーズンを過ぎている」などの理由で新品であるにも関わらず処分されてしまう例も少なくありません。
日本のファッション産業は年を追うごとに縮小しているのが現状であり、1991年には15.3兆円あった市場規模は2019年には9.17兆円程度にまで減少しています。20年程前の約60%の規模にまで縮小したアパレル業界ですが、現在でも供給されている商品の量は減っていません。
需要が落ち込んでいるにもかかわらず生産量が減っていないことが、大量廃棄の原因のひとつだといえるでしょう。
在庫となったアパレル製品は、倉庫の保管スペースを圧迫する原因にもなります。そのため売れ残った商品をいつまでも倉庫に残しておくことは難しく、品質に問題がない状態であっても古い商品から廃棄しなければならない状況は少なくありません。
さらにアパレルにおいては季節変動が激しいため、季節が移り変わるたびに新しい商品が生産されます。一部の定番商品は長く売り続けることもできますが、季節性の商品を次のシーズンまで保管しておく余裕はなく、廃棄の選択肢を選ばざるを得なくなります。
トレンドは移り変わることから、倉庫に残っている在庫を販売しても期待する売上が出ないというケースが多いでしょう。
過剰生産による商品の保管スペースの不足などによって、大量の廃棄処分が発生しているというのがアパレル業界の現状です。
日本国内では大量のアパレル廃棄が発生していることをお伝えしましたが、なぜこれほどまでに大量のアパレル廃棄が発生するのでしょうか。そこには、価格競争や購入金額の減少などの理由があります。
アパレル製品を安価に生産するファストファッションが広まったことによって、アパレル市場の価格競争は激しさを増しています。
市場全体が「いかに価格が安いか」を重視した商品展開を行うようになったことで、多くのメーカーが「少しでもコストを削って消費者に安価な商品を提供する」という点に力を注ぐようになりました。
結果的に「大量に生産することでコストを下げ、一着の商品を短期的に消費してもらい、売れ残った商品を大量に廃棄する」という「大量生産・大量消費・大量廃棄」の構造が出来上がってしまい、過剰在庫が発生する要因となっています。
ファストファッションの台頭によって消費者は安価にアパレル製品を購入できるようになり、結果的に「長く着るより短く着る」の考え方が市場に定着したといえます。
多くの消費者が高級ブランドの高品質な製品を一着購入するよりも「品質はそこそこであっても普段使いには十分」という製品を購入し、ある程度着用したら廃棄して別の服を購入するというサイクルをとっていると考えられます。購入した製品をワンシーズン着たら捨ててしまうという消費者も多く、資源を使って生産しているアパレル製品が気軽に使い捨てられてしまうことも問題のひとつといえるでしょう。
安価な製品が市場に大量に出回ったことにより、消費者のアパレル購入金額は減少しています。
経済産業省の調査では、1991年の購入単価を100%とすると、2012年には1人あたりのアパレル製品の購入単価は53.5%にまで低下しているという結果が公表されました。このように低価格な衣類が市場に出回り消費者の購入単価が著しく低下したことで、メーカーには利益確保のために一着あたりのコストを削減する必要が生じています。
一着あたりのコストを削減するためにやむを得ず大量生産を選択するメーカーも多く、結果的にすべての商品が消費されないことが予想されたとしても、大量生産せざるを得ない状況に置かれているケースは少なくありません。
「生産されても消費されない在庫が過剰在庫となり倉庫で長期間置かれ、次のシーズンに新商品として生産された商品を保管するために結局旧在庫となったアパレル製品が廃棄される」といった悪循環によって、アパレル廃棄が増加しているといえます。
アパレル廃棄によって、大きく以下の2つの問題が起こります。
地球環境への悪影響と企業への不利益という2つのデメリットは、企業にとっても消費者にとっても見過ごせない問題です。
アパレル製品を廃棄する際は一般的に焼却処分が手段として用いられますが、焼却処分に伴って排出される大量の二酸化炭素は地球環境に悪影響を及ぼすといわれています。
さらに二酸化炭素による影響は焼却廃棄だけでなくファッション産業のさまざまな工程によって広がっており、人間の活動によって排出されているすべての二酸化炭素のなかでも10%がファッション産業に由来するといわれています。この数値は全世界の国際線による航空輸送と海上輸送を合計した数値をも上回っており、加えて繊維染色は水質に重篤な汚染をもたらすとされています。
例えば一着の一般的なジーンズを生産するためには、2,000ガロン(1ガロン≒3.78541リットル)もの水が必要です。さらに綿素材のシャツを一着生産するだけでも、約2,650リットルの水を消費するといわれています。この数値は、1人が1日あたり8杯の水を飲んだとして3年半飲み続けられる量です。
このように一着のアパレル製品を生産するために大量の資源を消費しているにもかかわらず、生産コストの低下を目的とした大量生産によって、売れ残った商品を廃棄してしまっているのが現状です。生産工程で資源やエネルギーを消費し環境に悪影響を与えているうえに、廃棄の際に焼却や埋め立てによって再び環境を悪化させています。
世界では1秒ごとにゴミ収集車1台分のアパレル廃棄が行われており、焼却処分または埋め立てが続いているといわれています。このまま何も対策を行わなければ2050年までにはファッション産業によって世界の温室効果ガスの累積排出量の4分の1を使い切ってしまうとされており、ファッション産業の環境への悪影響における対策が急がれているといえるでしょう。
廃棄によって利益が出なくなることは、企業にとって深刻な問題です。
ファッション産業では生産コストを下げるために大量生産を行うことがありますが、大量生産して一着あたりのコストを下げたとしても、商品が売れ残れば利益にはなりません。それどころか廃棄のための費用がかかり、かえって企業の経営状況を悪化させるおそれがあります。
前述のとおり消費者によるアパレル製品の購入単価は減少し続けており、一着あたりの利益も低下しているといえます。利益が低下している以上はより多くの商品を販売しなければなりませんが、市場規模が減少してきているアパレル市場において、劇的に販売量を増やすことは容易ではないと考えられます。
コストを下げるために大量生産を強いられている反面、大量生産した商品を売り切ることができずに廃棄が増加し、利益を削っているという問題が考えられるでしょう。
アパレル廃棄を少しでも減らすために、各事業者がさまざまな取り組みを行っています。ここでは、アパレル廃棄を減らすためのいくつかの取り組みをご紹介します。
従来のアパレル市場では、一度消費者の手に渡った商品を再び流通させる方法はほとんどありませんでした。消費者が地元のフリーマーケットに出品したり個人的に知人に譲り渡したりすることでしか廃棄を防ぐ方法はなく、着なくなった洋服は捨てることが一般的だったといえます。
しかし近年では数多くの二次業者が登場しており、消費者が購入した商品を二次業者に売ったり譲ったりすることで、捨てずに新たな所有者を探す機会が増えています。
こういった事業者による再販は「二次流通」とも呼ばれており、「一度は消費者が購入した商品を再度市場に流通させて売買すること」をいいます。中古品の売買と考えるとイメージしやすいでしょう。
このように二次業者を仲介して消費者が不要になったアパレル製品を別の消費者へ譲り渡すことは、アパレル廃棄を削減し、環境への悪影響を抑えることにつながります。着なくなった商品を消費者同士で売買しても、生産元のメーカーに直接利益が発生するわけではありません。しかしファッション産業全体に流通する金額は増加するため、二次業者の存在は年々消費が落ち込みつつあるアパレル市場を活性化させる一因となるでしょう。
消費者同士が企業の用意したプラットフォームを通じて商品を売買することも二次流通の一部といえます。
例えばフリマアプリなどが多数登場しており、不要になったあらゆる商品を他の消費者に対して販売できる仕組みが整っています。CtoC(Customer to Customer)とも呼ばれるこの再販方式は近年拡大し続けており、アパレル廃棄の削減に有効な手段だといえるでしょう。
経済産業省が2018年4月に発表している「リユース市場の全体像」では、 CtoCにおけるリユースの取引は3,569億円、ネットショップを通じた取引が2,600億円、店舗を通じた取引は約1兆円と推計されており、リユース市場は2兆1,000億円もの大規模市場となっています。
このように二次業者もしくは消費者同士による再販は日本全体で注目を集めており、アパレル廃棄削減に大きな効果をもたらす可能性があります。
最近では、アパレル事業者が不要な洋服を店舗で回収する取り組みも行われており、国内でファストファッションを展開する各メーカーも不用品の回収に積極的に取り組んでいます。
例えばユニクロやジーユーでは、国内に展開しているすべての店舗に自社が販売した商品の回収ボックスを設置しています。
消費者が不要になった洋服を回収ボックスに入れると、その洋服が世界の難民キャンプや災害支援などに使われるため、アパレル廃棄の削減を実現しながら世界で洋服を必要としている貧困層などの助けにもなります。
さらにユニクロは2020年から「ダウン商品リサイクル」を開始しており、商品に汚れやパーツの破損などがあっても回収を受け付け、国内の工場でダウンやフェザーを取り出して再利用しています。
無印良品でも、自社で販売した商品の回収を行っています。「MUJI passport」というアプリの会員であれば1回収につき1,000マイルを受け取れるサービスが実施されており、消費者側にもメリットがあるのが特徴です。
回収した商品は再加工して特定の店舗で販売したり、バイオエタノールなどに再利用したりしています。
H&Mにおいてはクーポンを発行する取り組みを行っており、不要になった衣類を1袋回収するごとに、買い物で使える500円分のクーポン券を提供しています。加えて、H&Mではブランドにかかわらず商品を回収しているのが特徴で、すべての店舗でどのような状態のアパレル製品でも回収するよう取り組んでいます。
回収された洋服は世界の古着市場で販売されたり、リメイク資源や清掃用品として再利用されたりします。そのまま使用することが難しい場合は、繊維や自動車産業用の素材として利用されます。
国内の在庫はすべて廃棄されているわけではなく、一部次期に持ち越すという選択肢もとられています。
前述のとおり季節性の商品はトレンドの移り変わりが激しいため、次期に持ち越すと著しく価値が低下してしまう可能性が高いといえます。このような商品はシーズン中にセールやアウトレットを利用して値引き販売を行い、可能な限り売り切ったほうが利益につながりやすいでしょう。
一方で定番商品は、倉庫の空きスペースさえあれば次期に持ち越して販売を続けたほうが利益を確保しやすいといえます。次期に持ち越すことで値引きせずに販売し続けられるため、無理に値引き販売を行うよりも高い利益率を維持することができるでしょう。
トレンド商品の持ち越しはどの事業者も避ける傾向にありますが、定番商品においては10%程度を持ち越すケースもよくあります。紳士既製服などの一部のジャンルは持ち越し率が比較的高く、30%程度は持ち越して販売されることも少なくありません。
メーカーが生産した自社商品を翌シーズンに持ち越して販売するのではなく、売れ残った商品をOEM業者や商社などにまとめて販売する方法もあります。その場合、翌シーズンにOEM業者や商社などが「今季の新作」として販売するケースも少なくありません。この方法であれば、元々販売していたメーカーにとっては既存商品であっても、OEM業者や商社は新商品として取り扱うことができます。
こういった形で次期に持ち越すことで、企業の利益確保だけでなく、アパレル廃棄の削減にもつながるでしょう。
在庫を次期に持ち越すためには、在庫に合わせた倉庫を用意する必要があります。自社で保有している倉庫に保管するだけでなく、在庫の性質に合わせて外部倉庫なども積極的に活用することで、効率的な管理が可能になるでしょう。
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加えてアパレル廃棄の削減のために自社倉庫の運用を効率化するのであれば、倉庫ロボットの導入も効果的です。
Robowareは倉庫ロボットの運用相談から導入までをトータルでサポートしますので、倉庫ロボットの導入が初めての方でも効率的な運用体制を構築できます。アパレル廃棄の削減をお考えなら、ぜひWareXやRobowareのご活用もご検討ください。
ファストファッションの台頭や市場規模の縮小による購入単価の低下は、アパレル業界に「大量生産、大量消費、大量廃棄」の悪循環を招いています。アパレル廃棄が増加すると企業の利益が削られるだけでなく、環境にも甚大な悪影響を及ぼすでしょう。
アパレル廃棄を削減するためには企業による回収サービスや次期への持ち越しなどの方法があり、商品を次期に持ち越す場合は、倉庫の適切かつ効率的な管理や外部倉庫の活用が効果的です。
シェアリング倉庫サービスや倉庫ロボットの導入も検討しながら、アパレル廃棄の削減に積極的に取り組んでいくことが大切だといえるでしょう。