世界の医療はますます発展しており、医薬品も症状に合わせて様々な種類が使い分けられるようになりました。そんな日々進歩していく医療現場を陰から支えているのは、医薬品を適切な品質で医療機関へ届ける医薬品物流の存在です。
そこで今回は医薬品物流の特徴やその内訳、医薬品ならではの品質維持の条件など、医薬品物流を行う上でおさえておきたいポイントについてご紹介します。
医薬品物流とは、文字どおり医薬品を取り扱う物流業務のことを指します。
近年、医療技術はますます発展しており、多種多様な医薬品が開発されています。医薬品には適切な温度管理や湿度管理が不可欠であり、なかには環境の変化で効果が失われてしまうものもあるため、目的地へ輸配送する際は常に最新の注意を払う必要があるといえます。
医薬品物流は、主に「メーカーから卸へのルート」と「卸から医療機関までのルート」の2つのルートに分けられます。ここでは、それぞれのルートと医薬品物流の特徴についてご紹介します。
メーカーから卸へのルートでは、医薬品メーカーが生産拠点で製造した医薬品を医薬品卸の保管倉庫まで輸送します。その後、入庫された医薬品は品質を維持するために適切な温度帯で管理され、医療機関から発注があるまで倉庫に保管されることになります。
卸から医療機関までのルートでは、医薬品卸が医療機関から発注を受けた時に、医薬品卸の保管倉庫からピッキング、出荷・梱包、配送業務を行います。この時もそれぞれの医薬品に合った温度を保ち、医療機関に到着するまで品質維持に努める必要があります。
医薬品物流には、通常の物流とは異なる特徴があります。ここでは、主な4つの特徴についてご紹介します。
前述のとおり、医薬品物流において適切な温度管理は非常に重要な要素のひとつです。適切な温度帯で管理しなければ、医薬品の品質が損なわれる原因となるでしょう。
医薬品の温度管理は一般的に「標準温度(20℃)」「常温(15~25℃)」「室温(1~30℃)」「冷温(1~15℃)」などに分かれており、医薬品の種類によって適切な温度は異なります。なかには、0℃を下回る温度で冷凍保存しなければならない医薬品もあります。
輸送する際は温度管理車両を使えば冷温を保つことができますが、デリバリーのピーク時にはトラックが不足する可能性があることが課題のひとつといえるでしょう。
医薬品物流では、倉庫や輸送設備の保管スペースの温度チェックを意味する「温度マッピング」を行わなければなりません。温度マッピングでは、温度測定を行う位置やポイント数、期間、周期などが厳格に決められています。
「医薬品がどのルートで利用者のもとに届いたのか」を追跡するためのトレーサビリティも、医薬品物流では特に重視されています。
医薬品は体内に取り入れるものであるため、安心して利用してもらうためにも、製造後どのような経路をたどって目的地に到着したのかを明らかにしておく必要があります。
海外と医薬品を輸出入するケースが増えてきていることも、トレーサビリティが重要視される理由のひとつです。
例えば「A国製だと偽ってB国製の医薬品を取り扱う」といった悪質な業者もいるため、「どの生産ラインで製造され、どの地域の倉庫で保管されて、どの薬局に配送されたのか」を追跡できる環境を整備し、偽装が起きないようにすることが大切です。
医薬品物流を取り扱う際は、倉庫や輸配送時のセキュリティにも配慮する必要があります。
倉庫の保管スペースにはIDカード認証などを活用して限られた人員しか入室できないようにするなど、不特定多数の第三者が出入りできないようなシステムの構築が求められるでしょう。
加えて監視カメラなどを設置して保管スペースを監視できるようにしておくことで、医薬品が不正に加工されたり、盗まれたりすることを防止できます。
2018年に厚生労働省が策定した「医薬品の適正流通(GDP)ガイドライン」では、医薬品の保管条件を各章に分けてわかりやすく定義しています。このガイドラインは、次の9つの章で構成されています。
引用:厚生労働省 医薬品の適正流通(GDP)ガイドライン
https:://www.mhlw.go.jp/content/11120000/000466215.pdf
各章ではその章の原則が説明された後、一つひとつの詳細なガイドラインが記述されており、医薬品物流にかかわる卸売業者やメーカーをはじめとしたすべての人に必要な内容が示されています。
医薬品物流には、大きく分けて医薬品、医療機器、治験薬の3つのカテゴリーが存在します。ここでは、3つカテゴリー毎に医薬品物流の特徴をご紹介します。
医薬品物流は、病院などで患者に処方する医薬品に関連した物流業務のことです。
医薬品物流には、メーカーによる医薬品の製造業務や医薬品を保管するための物流センターの運営、厚生労働省への国家検定の申請、受注業務、医薬品の原料や中間体の保管・輸配送などが挙げられます。
物流代行業者が医薬品物流を行う場合は、倉庫業務の保管スペースや輸配送業務を代行するだけでなく、国家検定の申請代行なども総合的に行うケースが多いといえます。
医療機器物流は、医師が治療のために使用する医療機器や患者のリハビリをサポートするための医療機器を扱う物流業務のことです。
医療機器物流においては、メーカーによる医療機器の製造業務や医療機器を保管するための物流センターの運営、医療従事者が機器の使い方を学ぶためのトレーニングセンターの運営、医療機器の試験設備の構築などが主な業務になります。
治験薬物流は、未承認の新薬を治験対象者に投与するための治験薬を扱う物流です。
治験薬物流においては治験薬の扱いに詳しい専門スタッフを用意し、それぞれの特性に応じて適切な温度帯管理が可能な保管スペースを用意する必要があります。
治験薬物流の物流代行業務では、ユーザーニーズに応じた輸配送体制を整備し、時には割付を行うための作業場所も提供します。
医薬品物流では、「薬機法」という法律に基づいて業務を行わなければなりません。
薬機法は「医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律」という正式名称の法律で、元々は「薬事法」と呼ばれていた法律が2014年に名称変更されたものです。
薬機法の目的は医薬品や医療機器の品質・安全性・有効性を担保することであり、製造や表示、流通・販売、広告など、あらゆる項目において厳格な規定が定められています。薬機法の対象は医薬品や医療機器のほか、健康食品や化粧品、医薬部外品などです。
物流倉庫で医薬品を保管する業務を行っている場合、通常は厚生労働省に対して営業倉庫の届け出を行っていれば法令違反とはなりません。しかし化粧品を含めた衣料品のラベル貼りや梱包業務、再梱包などを行っている場合は、包装・表示・保管区分の「医薬部外品製造業許可」や「化粧品製造許可」を取得しておくことが望ましいといえます。
医薬品に関する許可を取得しているということは、「厳格な品質管理を行っており、国が定めた厳しい基準をクリアしていること」であるともいえます。このことから、取引先への「自社は医薬品物流を安全に行える」というアピールにもつながります。
医薬品物流では、倉庫によって保管できる場合とできない場合があります。そのため自社で保管できる体制の確立が必要になり、倉庫の維持には固定費としてコストがかかるのが難点ともいえるでしょう。
保管する医薬品の品目にもよりますが、保管可能なものはシェアリング倉庫の利用を検討することで、物流波動への対応を容易にしたり場所や期間の調整をフレキシブルにしたりすることが可能です。医薬品物流の整備をお考えの際は、ぜひ検討してみてはいかがでしょうか。