目次
「安全在庫が具体的にどんなものかわからない」
「どうやって計算して設定すればいいかわからない」
ECサイトや店舗などで商品の在庫を管理する際、「安全在庫」について、このような疑問を持つ方は多いのではないでしょうか。
安全在庫とは「欠品が発生しないよう最低限保管しておく在庫のこと」で、突発的に需要が増えるなどのイレギュラーな事態が発生しても、販売機会の損失を回避できるように持っておくものです。
安全在庫を設定し確保しておくことで、需要やリードタイムといった不安定な要素に左右されず商品を販売できます。
しかし、安全在庫は「ただ計算して設定すればOK」というものではないため、現場で役立てるためにはうまく活用する方法も知っておかなければなりません。
本記事では、安全在庫に関する基礎知識から実践的な活用方法まで、在庫管理に携わる人が知っておくべき情報を幅広く解説します。
自分の現場の在庫管理を改善したいと考えている方は、ぜひ最後までご覧ください。
まずは安全在庫がどのようなものなのか、はじめに知っておくべき基礎知識を以下の順にお伝えします。
安全在庫とは「欠品が発生しないよう最低限保管しておく在庫」のこと
押さえておきたい「安全在庫」と「適正在庫」の関係
安全在庫を計算して導入する前に、安全在庫そのものについて正しく理解し、「なぜ設定する必要があるのか」を明確にしておきましょう。
安全在庫とは「欠品が発生しないよう最低限保管しておく在庫」のことです。過去の売れ行きのデータを元に「次回商品が納品されるまでに、このくらい在庫を確保しておけば安全」という在庫の数を算出します。
算出した安全在庫を持っておくことで、常に在庫状況にゆとりが生まれ、
突発的な需要の急増
商品の生産元からの供給不足
といったイレギュラーな事態が発生しても、販売機会の損失を回避できます。
このように、安全在庫を持つことで、商品の生産から販売までに生じるあらゆるリスクに備えられます。
突発的な需要が発生しやすいアパレルや家電業界、物流に支障が出ると商品を入荷できない輸入品を取り扱う業界などは、特に設定しておくべきものだと言えるでしょう。
安全在庫について知るうえで押さえておきたいのが、安全在庫と適正在庫の関係です。
結論から言うと、安全在庫は適正在庫を決めるための要素のひとつです。
どういうことなのか具体的に理解するために、まずは安全在庫と適正在庫の定義を比較してみましょう。
安全在庫が欠品を防ぐために設定するものであるのに対し、適正在庫は「多すぎない在庫量(上限)・少なすぎない在庫量(下限)」を設定するものです。
上の図を見てもわかるように、安全在庫は適正在庫の下限値にあたります。
在庫は多すぎると保管コストがかかり、少なすぎると販売機会を逃してしまうため、バランスが非常に重要なものです。
安全在庫は適正在庫を決めるための要素のひとつでしかなく、多すぎず少なすぎない在庫量をキープして在庫管理をうまく機能させるためには、適正在庫も併せて設定する必要があると覚えておきましょう。
ここでは、安全在庫を持つ3つのメリットについて解説します。
安全在庫を設定して欠品を防ぐことで、具体的にどんな良いことがあるのかイメージできるよう、しっかりと確認しておきましょう。
需要の急増に対応できるというのは、安全在庫を持つ一般的なメリットです。
安全在庫を設定して在庫にゆとりを持たせておくことで、予測できないタイミングで商品の需要が高まった際も、欠品を発生させずに販売できます。
上の例のように、SNS等で紹介され急激に注目が集まった商品でも、安全在庫を確保しておけばすぐに在庫切れになることはありません。
需要が急増しても「顧客を在庫切れでがっかりさせず、欲しい人全てに商品がきちんと行き渡る」というのは、販売の現場において最大のメリットなのではないでしょうか。
リードタイムの延長に対応できるというのも、安全在庫を持つ大きなメリットと言えるでしょう。
商品の生産や輸送などの工程でトラブルが発生し、予定よりも納品が遅れてしまっても、安全在庫を持っていれば「すぐに欠品状態」という事態には発展しません。
上のケースのように、不良品の発生によってリードタイムが通常よりも倍に伸びてしまったとしても、安全在庫によって欠品のリスクを軽減できます。
急な価格変動が起こった際のリスクヘッジができるのも、安全在庫を持っておくメリットのひとつです。
商品の価格は
- 資源不足による原材料の価格高騰
- 市場全体での需要の急増
といった、販売の現場ではコントロールできない理由で高騰することがあります。
あらかじめ現場に一定量の安全在庫を確保しておけば、価格が安定するまでは追加で発注しない等の手を打つことができます。
急な価格変動にも対応できる安定在庫は、価格高騰のような「予期せぬ状況に陥った際の保険」として大いに役立ちます。
続いて、安全在庫を持つ3つのデメリットについて解説します。
安全在庫は、すべての在庫管理の問題を解決する万能なものではありません。
正しく活用するために、メリットだけではなくデメリットも把握しておきましょう。
安全在庫を計算し設定しても、欠品を完全に防止することはできません。
なぜなら、安全在庫は過去の売れ行きなどのデータをもとに導き出す「目安」だからです。
上の例のように、安全在庫をいくら正確に計算しても、欠品が発生してしまうケースはあるということを念頭に置いておきましょう。
安全在庫には、欠品を防ぐことができても、反対の「過剰在庫」は防げないというデメリットがあります。
【過剰在庫とは?】
需要を上回る量を発注し、売れ残ってしまった在庫のこと
安全在庫は「最低限このくらいは持っておく」という、ゆとりある在庫の下限を決めるために設定するものであり、これ以上は過剰在庫になるといった在庫の上限は設定できません。
さらに、欠品を防ぐために算出するという性質上、大きな数値が出る傾向にあります。
しっかり計算して出た数量を入荷したのに、思うように売れずに在庫が余ってしまった
という事態が発生する可能性も考慮したうえで、実際に現場に置く在庫の数を決定する必要があります。
安定在庫の計算は手間がかかるものであり、その理由は主に以下の3つです。
エクセルを使った計算に慣れていない場合や、現場が忙しくて事務作業にあまり時間が取れない場合は、無理に今すぐ始める必要はありません。
安定在庫を設定して在庫管理を改善させたいのであれば、繁忙期が終わった後など、ある程度まとまった時間が確保できるタイミングで行うと良いでしょう。
ここからは、安全在庫の計算方法を、4つのステップで解説します。
安全在庫を算出する際に必要な「安全在庫係数」・「標準偏差」・「リードタイム」の設定の仕方を各ステップで解説した後、具体的な数値を当てはめてシミュレーションを行うので、ぜひ実際に計算する際の参考にしてくださいね。
まずはじめに、「安全在庫係数」を設定します。
欠品許容率を設定し、以下の表を参考に安全係数へと変換しましょう。
欠品許容率は自由に決められるため「できる限りゼロに近づけたい」と考えるかもしれませんが、欠品許容率が低すぎると、過剰在庫のリスクが高まるため注意が必要です。
迷った場合は、一般的な欠品許容率である5%(安全係数は1.65)に設定しましょう。
標準偏差は手計算や電卓での計算が非常に困難であるため、エクセルの関数「STDEV.S」を使って計算します。
以下の例を参考に、エクセルで標準偏差を計算してみましょう。
商品の月ごとの出庫数のデータを用意し、エクセルに入力します。
1年間分など、データの量が多いほど計算の精度が高くなります。
この例の場合、商品の標準偏差は「41.36863107」となります。
月ごとの出庫数にばらつきがあればあるほど、標準偏差の値も大きくなります。
続いては、「発注間隔」と「調達期間」の合計である、リードタイムを設定します。
次の例を参考に、リードタイムを計算してみましょう。
この例の場合、リードタイムは「11日」となります。
最後に、STEP1~3で設定した値を、安全在庫の計算式に当てはめましょう。
これまでの例で設定した値を当てはめると、次のようになります。
1.65 × 41.36863107 × √11 = 226.3869751
小数点以下を切り捨てて、安全在庫の数は226個となります。
以上が、安全在庫を計算する4つのステップです。
最後は、安全在庫を現場の状況改善に役立てる3つのコツを紹介します。
- 需要が変動しやすい商品の安全在庫はこまめに計算し直す
- 欠品や過剰在庫が多発するようなら微調整する
- 適正在庫の上限も設定して「多すぎず少なすぎない在庫数」を目指す
需要が変動しやすい商品の安全在庫は、こまめに計算し直すことをおすすめします。
商品の需要はさまざまな要因によって変動するものであり、安全在庫の正解もその時々によって異なります。
算出した安全在庫は長期間固定せず、需要が変動するタイミングで計算し直し、「今現在の安全在庫の正解」を更新しましょう。
具体的には、以下のような方法が有効です。
- 流行の移り変わりが激しい商品は、前の月の売れ行きを参考に毎月安全在庫の数を計算し直す
- 季節性の高い商品は、年間の安定在庫を「繁忙期」「通常期」「閑散期」の3つに分けて設定する
夏場と冬場で売り上げが大きく変わるかき氷店の場合・・・
このように、状況に応じて安全在庫を計算し直す手間をかけることで、欠品や過剰在庫のリスクを軽減できます。
実際に安全在庫を持ってみて欠品や過剰在庫が多発するようなら、在庫量を微調整をすることも重要です。
算出した安全在庫の数値は、あくまで過去のデータに基づいた目安であるため、実際の現場の状況に100%対応できるとは限りません。
次の例のように、安全在庫と現場の状況を擦り合わせ、在庫の量を調整してみましょう。
計算で出た数値を信用しすぎず、状況に応じて在庫料を変えてみることで、在庫管理は改善されます。
販売現場の状況を改善するためには、安全在庫だけではなく適正在庫の上限を設定して「多すぎず少なすぎない在庫数」を目指すことも重要なポイントです。
「1-1.押さえておきたい「安全在庫」と「適正在庫」の関係」でもお伝えした通り、安全在庫を計算して求められるのは、「適正在庫の下限」のみです。
適正在庫の上限も併せて設定することで、欠品だけではなく過剰在庫も防止でき、より精度の高い在庫管理が可能になります。
適正在庫の上限は、以下の方法で計算できます。
次の例を参考に、適正在庫の上限を計算してみましょう。
このように、「安全在庫による多すぎない在庫管理」を「適正在庫による多すぎず少なすぎない在庫管理」を目指しましょう。
「そもそも商品を保管しておくスペースが足りないから在庫をあまり抱えられない」
という理由で安全在庫を設定し、欠品にならないギリギリの範囲で在庫管理をしようと考えている場合は、「外部倉庫を借りる」という手段を一度検討してみるのがおすすめです。
安全在庫は商品の欠品を防ぐために設定するものであり、ある程度のゆとりを持った数字が算出されます。
繁忙期で商品の出入りが激しいタイミングでは特に、「実際に計算してみたら現場に置くのが難しい量だった」という状況に陥る可能性もあります。
そんな時、現場の近くに外部倉庫を借りて一時的に商品を預けておけば、省スペースを保ちながら安全在庫も確保しておけます。
シェアリング倉庫サービス「Warex」なら、全国の倉庫の空きスペースを検索し、パレット単位で借りることができます。
預けた荷物の量に応じて保管料が日割りで計算されるため、月額で貸倉庫を契約するよりも余分なコストがかかりません。
- 繁忙期だけ在庫を預かってほしい
- 商品の需要が急増した時だけ数日間利用したい
といった一時的な利用におすすめです。
最後に、記事内でお話した内容の重要ポイントをおさらいしましょう。
安全在庫とは「欠品が発生しないよう最低限保管しておく在庫のこと」で、計算した安定在庫を保有することで、次のようなメリットとデメリットがあります。
安全在庫は「安全在庫係数」×「標準偏差」×「√リードタイム」 で求めることができ、次の4ステップで計算を行います。
STEP1.安全在庫係数を設定する
STEP2.標準偏差を設定する
STEP3.リードタイム(発注間隔+調達期間)を設定する
STEP4.1~3で設定した値を計算式に当てはめる
計算した安全在庫は、3つのコツを抑えることで、販売の現場の在庫管理状況を改善することができます。
需要が変動しやすい商品の安全在庫はこまめに計算し直す
欠品や過剰在庫が多発するようなら微調整する
適正在庫の上限も設定して「多すぎず少なすぎない在庫数」を目指す
本記事の内容を参考に、安全在庫を設定して欠品を防ぎ、あなたの事業が上向くことを願っています。