物流DXで実現するサステナブルな輸配送──国が進める“機械化”と“デジタル化”とは

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2022-01-11
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ここ10年、荷主が負担するトラックの輸配送コストは増加の一途にあります。ドライバーの労働環境の改善や、環境規制への対応、人手不足を背景にしたドライバー人材の供給不足などにより、輸配送コストは今後も増加していくことが予想されます。これらの要因による輸送能力の限界から、モノを「運べない」といった危機的事態も懸念される状況にあるのです。今回、輸配送分野における機械化・デジタル化など、効率化を目指す国や事業者の取り組みに触れながら、持続可能な輸配送の構築に向けた動きをご紹介していきます。

日本の輸配送業界が直面する“2つの課題”

日本の輸配送業界は、

・積載率の低さ
・運転以外の業務での拘束時間の長さ(例:倉庫に荷物が到着した後の待機・積み込み・荷下ろしといった荷役作業)
・多重下請け構造による低い収益性

といった課題を抱えており、その中でも「2024年問題」と「脱炭素化問題」は喫緊の課題とされています。

トラックドライバー不足は既に社会問題となっています。長時間で過酷な労働環境に加えて、多重下請け構造で労働に見合った適正な収益が労働者に分配され難い環境にあり、若年入職者が減少して就業者の高齢化が進んでいます。

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新型コロナウイルスの感染拡大による巣ごもり需要で宅配便取扱個数は増加したものの、消費や生産の落ち込みにより、日本国内の貨物輸送の荷動きは鈍化しました。これにより、一時的にドライバー不足は緩和され、高騰が続いた運賃も下落しています。ただし、これはあくまで一時的な現象で、荷動きも既に回復基調にあります。今後経済活動が本格的に回復するにつれて、ドライバー不足やそれにともなう運賃上昇といった課題が再び深刻化することが予想されているのです。

令和元年度におけるトラックドライバーの平均年間労働時間は、大型トラックドライバーが2,580時間、中小型トラックドライバーが2,496時間で、全産業の平均2,076時間に比べると、トラックドライバーはかなりの長時間労働です。

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この問題を解決するために、トラックドライバーへの時間外労働時間の上限(960時間)が2024年4月より適用されます。トラックドライバーの就業者人口の減少に加えて、労働時間の上限規制で一人ひとりのドライバーの稼働時間が大幅に減少することにより、業界全体として配送キャパシティが大幅に減少する見通しです。配送費の急騰と輸送能力の限界で「運べない」、そんな将来がすぐそこまで来ています。これが「2024年問題」です。

脱炭素化問題に代表される環境規制への対応も益々重要性が増しています。気候変動の影響は年々深刻化し、環境・社会および人々の生活・企業活動に大きな影響を及ぼすようになっています。世界全体で温室効果ガスの排出削減を進めていくパリ協定が締結され、日本は2050年までに“ネットゼロ”を目指すことが発表されました。つい先日COP26が閉幕し、石炭火力の段階的削減などを盛り込んだ成果文書が採択されたのは、記憶に新しいところです。

日本のCO2排出量に占める運輸セクターの比率は約2割と高く、その約半分を貨物自動車が占めていますが、貨物自動車のCO2排出量は積載率の低下等を背景に、ここ数年改善が進んでいません。車両の電動化や燃費の劇的な向上が期待されていますが、技術・インフラ・コスト面で課題となるため、すぐに全面的な導入とはならないでしょう。今後は脱炭素コストの負担による潜在的な配送費の増加も懸念されており、脱炭素化へ向けた取り組みは、物流企業にとって経営課題の1つとなっています。

環境変化への対応が強く求められる今こそ、これまで進捗してこなかった「物流DX」、即ち「機械化・デジタル化を通じて、情報を見える化し、作業プロセスを標準化することにより、既存の非効率なオペレーションを改善するとともに、物流産業のビジネスモデルそのものを変革する(総合物流施策大綱)」を推進する好機ともいえるのではないでしょうか。

国交省・経産省主導で進む“モノの移動”の技術的な変革

物流DX推進の要素の1つである「機械化」に向けた取り組みとして、トラックの隊列走行や自動運転の実用化に向けた検討が進められています。隊列走行とは、複数のトラックが連なり、走行状況を通信によってリアルタイムで共有しながら自動で車間距離を保って走行する技術です。

国土交通省は、2021年度内に高速道路での後続車有人隊列走行の商業化、その後2023年以降により高度な車群維持機能を付加した発展型の商業化、2025年以降には高速道路でのレベル4自動運転トラックによる無人隊列走行の商業化を目標として掲げています。

2021年2月には新東名高速道路の一部区間において、後続車の運転席を無人とした状態での後続車無人隊列走行技術が実現しました。

経済産業省と国土交通省が実施した大型トラック3台を用いた実証実験では、先頭の車両には通常通りドライバーが乗り、後続2台の車両には助手席に保安要員が同乗するも運転席は無人の状態で走行しました。また、実験区間の高速道路本線上のみならず、PA・SA内の発進~本線合流と分岐・駐車までも、ドライバー一人の状態で隊列走行できることを確認しています。

この実証実験により、隊列走行時の課題の1つである割り込みについては安全技術等に一定の目途はつきました。しかし、割り込みにより後続車が停止した後、自動的に走行し隊列に復帰する必要がある他、隊列走行に必要な装置の小型・低コスト化など、引き続き商業化に向けた課題も残されています。現在、経済産業省・国土交通省が主導し、ハード(車線、専用施設等)、ソフト(法律、保険等)両方の整備に向けた検討が進められています[1]。

また域内輸送では、自動車メーカー各社が、レベル4の自動運転技術によるトラックの自動運転化の実証実験を実施しています。

いすゞ自動車は、藤沢工場(神奈川県藤沢市)で自動運転レベル2相当の実証を進めており、段階的に自動運転のレベルを上げ、2022年末までに閉鎖空間でのレベル4の実証実験を行うことを目指しています。傘下のUDトラックスは、2019年に日本通運、ホクレンと共同で、レベル4の大型トラックによる試験走行を実施しました。これは、公道を一部含むルートとしては国内初のものです。実験は、砂糖の原料となるてん菜の運搬業務を対象に、工場周辺の公道から工場入口を経て、てん菜集積場から加工ライン投入口へ横持ちする運搬ルートで行われました。

商用車メーカー各社は、物流課題を解決する技術として、自動運転トラックの開発を本格化させています。工場、港湾、空港などの大規模施設内は運用ルールも徹底しやすいことから、比較的早期の実用化が期待できるのではないでしょうか。

国が進める「スマート物流」の要点

物流DX推進のもう1つの要素である「デジタル化」についても様々な取り組みが進められています。

「スマート物流サービス」は、内閣府主導の国家プロジェクトであるSIP(戦略的イノベーション創造プログラム)の一環として研究開発が進められているプロジェクトです。

個別最適にとどまらず、サプライチェーン全体の効率性・生産性を向上させるべく、

・安全性・継続性・国際競争力を兼ね備えたデータ基盤の開発
・データの標準化
・各プレーヤーが容易にデータ収集できる技術の開発

を通じて、川上から川下までの商流・物流に関するデータを蓄積・解析・共有する、「物流・商流データ基盤」の構築と社会実装を目指しています。

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出典:国土交通省 物流政策討論会 資料「SIPスマート物流サービスの取組み」

一方、配車の現場に目を向けると、多くの場合、配送の依頼は電話・FAXでやりとりされ、月末・月初に大量の紙の請求書が届いて突き合わせを行うなど、デジタル化が大きく遅れています。それゆえに、一企業内でさえも、各担当者や部門がそれぞれExcelや紙で情報を保有するなど、情報が一元化されていないケースがあるのです。

このような現状から、スマート物流のようなデータ基盤の構築・活用を目指すにあたっては、まずは各企業が配送に関わる業務をデジタル化し、配送情報の電子化、データの標準化を進める必要があります。

三菱商事では、これら輸配送に関わる課題解決を目指して、デジタル輸配送プラットフォームenTra(エントラ)を立ち上げました。ラクスル社ハコベル事業との協業により、「オンライン配車サービス」と、そのノウハウを活用した「配車管理システム」、また、これら2つの仕組みを組み合わせてお客様独自の配送プラットフォームを提供する「独自デジタル配送サービス」という3つのサービスを提供しています。

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荷主と運送会社をマッチングする「オンライン配車サービス」では、荷物を運んだ後の帰り便トラックの活用など、限りある配送キャパシティの有効活用を通じて、よりサステナブルな運送の仕組みを実現します。また同時に、CO2排出量の削減にも寄与します。

冒頭に述べた環境変化に対応するためには、自らの配送を可視化、定量的に評価し、解決すべき課題を見極めることが必要です。

「配車管理システム」では、荷主と協力運送会社間の配車依頼から精算までの情報のやりとりをシステム上で行うことにより、配車現場の効率性・生産性向上を実現します。加えて、全ての配送情報がシステム上に一元化されることで、データの可視化と標準化も同時に実現します。これにより、「2024年問題」や「脱炭素化」に向けた対応として、データを活用した輸配送オペレーションの最適化や、共同物流といった新たな施策の検討が可能になります。

差し迫る課題解決に向けて、国や業界各社が様々なデジタル化の取り組みを進めています。将来的には複数のプラットフォームが連携し相互に接続することで、幅広い事業者が参画できる物流の仕組みが出来上がるのではないかと想像されます。

次回は、お客様にモノ・サービスが到達する物流の最後の接点である、「ラストワンマイルの課題と取り組み」をご紹介します。


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