【セミナーレポート:第二部】物流DXの指針はここにある!新・物流施策大綱を知る(野村総合研究所セクション)

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# 総合物流施策大綱
2021-10-08
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セミナーの概要

本連載では、2021年9月9日に開催された「物流DXの指針はここにある!総合物流施策大綱を知る」を、3回連載形式でレポートします。

第1回目:【セミナーレポート】総合物流施策大綱セミナー(国交省セクション)
第2回目:【セミナーレポート】総合物流施策大綱セミナー(野村総合研究所セクション)
第3回目:【セミナーレポート】総合物流施策大綱セミナー(Q&Aセクション)

第二回目では、世界で注目を集める「フィジカルインターネット」について野村総合研究所 藤野様にお話しいただいた内容をご紹介します。

フィジカルインターネットはオペレーションを抜本的に変えていく

司会:続きまして、野村総合研究所藤野様より「フィジカルインターネットについて」というテーマでご講演をいただきます。藤野様は野村総合研究所産業 ITイノベーション事業本部主席研究員としてご活躍され、政府や自治体の政策研究企業の業界改革コンサル等に携わっておられます。

野村総合研究所 藤野様:よろしくお願いいたします。本日は「フィジカルインターネット」についてご説明させていただきます。
今日お話しさせていただくテーマは「フィジカルインターネット」ですが、まさに物流DXそのものであり、これまでの物流の在り方をデジタル化などによって大きく変革するということです。

つまり、物流のオペレーションをITの力で抜本的に変えていくことにあたります。さらに、物流システムの規格化を通じて、物流産業そのものを革新する。こういったことが物流DXとして語られているのですが、最終的にどのような形になっていくかというところですよね。まずは長期的にみた時の姿をみて、そこから振り返って事業を考えようということなんです。

冒頭、三菱商事も物流にまつわるさまざまなサービスを紹介していましたが、 輸送マッチングサービスや倉庫シェアリングサービスのような新規事業は日本だけでなく世界中でこのような動きがあります。その背後にあるのがフィジカルインターネットです。このようにお考えいただければ、少し位置付けがわかりやすくなるのではないかと思います。

ドライバーの稼働効率が低い物流センターは物流資産稼働率も低い

まず、国内物流の課題についてお話しします。
国内物流の課題は、深刻なドライバー不足や幹線トラックの積載効率が非常に低いことです。ドライバーの稼働効率が低い物流センターの物流資産稼働率は低い傾向にあり、稼働時間だけが長くても実際には24時間フル稼働できているわけではないというのが現状です。

このような物流課題を解決するにあたってITソリューションが活躍しますが、「物流の課題が生じている」ということはソリューション開発の絶好の機会であるともいえます。日本の首都圏は非常に密度が濃く、質の高い物流を提供しています。これを的確なソリューションとして物流DXを実現できれば、世界に輸出できるプラットフォームとして武器になります。

ドライバーの稼働効率が低いという課題を解決するための基本方針は、ユニットロードシステムの標準化をはかることであると感じています。

フィジカルインターネットとは「相互に接続されたグローバルロジスティクスシステム」

それでは、あらためてフィジカルインターネットについてご説明いたします。
フィジカルインターネットとは、「シームレスなアセットなシェアリング」 まさに先程トラックのマッチングや倉庫のシェアリングといったご紹介がありましたが、物流資産のシェアリングサービスをシームレスにやっていこうということ。具体的な例では、できるだけ簡単にトラックの積載効率を上げていこうということです。これを徹底的に行っていきましょうということが第5回までのフィジカルインターネット・カンファレンスで話されていたことなんです。

実は直近の第6回ではさらに複雑になっていて、荷主・サプライチェーン・輸送の3つの領域が多階層に相互に繋がって効率的な物流になっていく、ということを言っています。ではどのように実現できるようになるかというと、コンテナをはじめとした物流の標準化をしていくことが重要になっていきます。そして物流を通じて、SGDs、カーボンニュートラル(脱炭素)を意識しながら、人々の要求に応えていくことです。

フィジカルインターネットはつまり物理的なインターネットのことです。従来型の物流システムであった「ハブアンドスポーク方式(拠点に荷物を集約してから目的地へ配送する方法)」から「バケツリレー方式(目的地まで複数の物流業者が順番につないで配送する方法)」の通信システムに変わっていくということでもあります。このようにデジタルインターネットのパケットのように標準化できれば、マテリアルハンドリングシステム含めた物流が画期的に変わるだろうという期待を持っているのです。

脱炭素をはじめとした環境問題にも注目が高まっている

最もカーボンニュートラルを出さない方法は複数企業による共同物流センターである

そして、ラストワンマイル配送。現在は各企業が自社の在庫保管拠点を所有していて、そこから在庫を出荷・配送するのが一般的な物流のスタイルとなっています。
そうではなく、企業の枠を超えて計画的に保管し、配送するようなセンターを作り共有する。そういったビジネスも新しく作っていくことを検討します。そうすると複数の配送拠点をより効率的に使えるようになり、配送距離も短くなります。すると、CO2の削減に繋がります。

アメリカの例でいうと、ケベックからロサンゼルスまで5,000キロある道程を300kmずつのリレー方式で配送すると、ドライバーひとりの走行時間が短くなるために睡眠時間が不要になり、結果的に早く配送できるうえにコストも安くなります。リレー方式に変更することで、コストも下げられて人にも優しい物流ができます。

サプライチェーン、ロジスティクス・インフラ、トランスポーテーション・インフラの3つの領域がそれぞれ相互に接続が可能で、それぞれがしっかり繋がりながら階層構想を持ち標準化されていくことでこれが実現するのではないかと考えられています。そのためには、その基準に達成しているのかという点も重要になってきます。

温室効果ガスの当初の削減目標は2050年までとされていましたが、廃棄物を活用して排出量をゼロにする「ゼロエミッション」を推進しようという話がもちあがっているために、現在では2030年に前倒しする動きが出てきているのが現状です。

輸送効率の向上について

それではなぜ、モジュラー容器を使うと良いかをお話ししていきます。

海上コンテナは極めて生産性の高い物流として評価されている

物流業界で最大のイノベーションであったのではないのかというのが、この海上コンテナなんです。モジュラー化されたコンテナを世界中で徹底的に使うことで輸送効率を大幅に向上させました。現在でも海上コンテナは極めて生産性の高い物流として評価されていますが、今後は「海上コンテナをさらにさまざまな箇所で使っていけないか」という試みが行われているところです。

こちらは規格化された容器「GS1 SMART-Box」ですが、今まで企業ごとに容器サイズがバラバラで統一されていないものを規格化することでコスト削減を目指しています。このような積み重ねが少しずつ達成されることで輸送効率が向上し、物流産業の構造が大きく変わってくるだろうと考えています。

物流サービスの競争性はさらに激しくなっていくことが予想される

このようなことを行っていくと、一体何が起こるのかというと、物流産業の構造がかなり変わってきます。いままでは物流のスタートである荷主がトラックを持っている運送業者に荷物を預けるところから始まりましたが、そうではなくなります。それを表したのが以下です。

1. 物流不動産提供サービス

すでに 日本ロジが提供するREIT(リート)という土地と建物を提供し、証券市場の商品になっているサービスもありますので、物流不動産の提供サービスはすでにあります。

2. オープン・クロスドックセンター(OCDC)の機能提供

先程の共同配送センターのことです。例えばユニットロード化、カプセル化が進むのであれば、マテハン企業が規格化されたハードの貸し出しと共に提供するなど新しいビジネスが登場するのではないかと言われています。

3. OCDC間の幹線輸送サービス

首都圏と主要都市を繋ぐ幹線輸送に関しては、第一部でもあった通り自動運転や対立走行などを活用しやすいため技術革新が適用できます。OCDCを高速道路のインターを降りてすぐのところに設置しておけば、こういった技術が活用できます。

4. OCDCから大都市内部の小口配送サービス

ラストワンマイル配送として、さまざまな事業者が競争的に行うことが考えられます。

5. 顧客フロントで物流サービスを行う

さらに、これらの物流のコーディネートを行うシステムインテグレータは、これまでには全くなかった新しい役割をもったビジネスとして成立する可能性があると想像しています。

そして、これらが相互に連携していきながら、標準のインターフェイスやプロトコル、契約書を使いながら基本契約を結んだ上で、色々と状況に応じて適材適所に動いていく。こういった仕掛けが出てくるのがいいのではないかと考えています。

実際に倉庫のシェアリングサービスやオンデマンドストレージのマーケットプレイス、フルフィルメントサービスなどの分野において、アメリカではスタートアップがかなりのベンチャーキャピタル投資をしているという現状があります。

バラバラになっている通信プロトコルを標準化すれば、一気に国際的な物流に展開できる可能性が高まる

そうすると、オンデマンド型の物流資産のシェアリングサービスが出てくるだろうと考えられます。コンピューターのリソースを使ってあらゆる領域の最適化を行うことができ、非常に高いパフォーマンスを計画的に発揮できることが期待されます。物流ネットワークにおける「設計・計画・実行」の3つの領域で最適化のアルゴリズムが動いていくだろうということです。

繰り返しにはなりますが、高速道路の自動運転やラストワンマイル配送の物流などを分離して統合することができるようになることで、新技術への応用の可能性が拡大するのです。

もちろん、一朝一夕には実現は難しいことです。しかし国土交通省も物流の標準化を進めるということを、物流大綱で宣言されていましたし、かなり実現性が高まってきたのではないかと思っています。

では具体的になんなのか。一番近いのは国際貿易物流です。ご存知の通り国際貿易物流は非常に業務が複雑です。これが国際標準のEDIとしてかなり標準化できてきており、簡単にデータベースにアクセスできるようになっています。

こういうことを行っていく仕掛けを作っていきたいなと思っている。
総合物流施策大綱セミナーでも説明差し上げているのですが、日本の物流産業のデジタル化の閉塞は、まさに荷主の企業ごとに非常に高度なサービスを行っているため、通信プロトコルがそれぞれバラバラになっているのです。ここを標準化すると、一気に国際物流含めて日本の物流を展開できる可能性があります。

個人的な見解としては、物流問題の解決は2030年より以前に着手しなければならないと感じています。2021年にも多くのプロモーションやディスカッション、セッションを予定しており、今後も物流DXを推進するためのさまざまな活動を続けていく予定です。

「物流DXの究極のオープンな共同物流機構」の目標像として、フィジカルインターネット構想を捉えてください。そして、今後これが実現されていくとして振り返り、ビジネスモデルを考えていただく。こういうことができていくと、かなり有効な事業企画ができていくのではないかと思う次第です。

次のセッションでは、第一部・第二部にいただいたご質問にお答えします。


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