本連載では、2021年9月9日に開催された「物流DXの指針はここにある!総合物流施策大綱を知る」を、3回連載形式でレポートします。
第1回目:【セミナーレポート】総合物流施策大綱セミナー(国交省セクション)
第2回目:【セミナーレポート】総合物流施策大綱セミナー(野村総合研究所セクション)
第3回目:【セミナーレポート】総合物流施策大綱セミナー(Q&Aセクション)
第三回目は、総合物流施策大綱セミナーのなかで参加者から寄せられた多くの質問について、さまざまな視点から語られた回答をまとめました。KPIの設定やアメリカと日本の物流倉庫の違いなど、専門的な視点からのご回答を紹介します。
それでは、本日の総合物流施策大綱セミナーで皆さまから頂いた質問についてご回答いただきたいと思います。たくさんのご質問をいただいているため、限りある回答数となりますがご紹介させていただきます。
まず最初に、総合物流施策大綱やフィジカルインターネットの概念でも非常に重要である「標準化」についての質問からお伺いしたいと思います。
車両や荷積み・荷下ろしの標準化を進めるという必要がある、というお話をセミナーのなかでいただきました。しかし物流の標準化を行うためには、物流事業者のみがさまざまな取り組みを行うのでは実現が難しいのではないか、荷主の協力が必要不可欠、むしろ負担が増えるのではないでしょうか。その中で、どのような仕組みを作るのが適切なのでしょうか?
回答
国土交通省 髙田様(以下、髙田様):物流事業者だけではなく、まさに荷主様のご協力が必要だろうと思っていました。実際この総合物流施策大綱でも、物流業者と荷主の取引環境を改善するためには運送事業者の労働環境の改善だけではなく、依頼する側である荷主様の協力も必要となります。さまざまな輸送の趣旨を理解いただいたうえで、マッチングも利用しながら環境を整えていっていただければと思います。またさらには、例えばトラック輸送の場合には下請けや荷主に対して適切な取引ができる仕組みづくりも進めて行かなければなりません。
そのために、適正な取引を推進させるために政府が策定したガイドライン(2021年6月時点でver2.0を提供)も積極的に活用しながら、物流事業者、荷主企業、政府などあらゆる組織が一丸となって物流環境を整えていけるように、政府としても支援を行っていく予定です。
野村総研研究所 藤野様(以下、藤野様):まさに物流施策大綱会議の中でも議題に上がっていました。「標準化を行うといっても荷主企業に聞いてもらえるとは思えない」
「荷主企業からそのような面倒なことを言うのであれば他の物流事業者に頼むと言われたらどうするのか」という声は何度もあがってきています。だから「総合物流施策大綱会議」なのです。
このような課題を、物流事業者と荷主企業の間だけで解決することは簡単ではありません。そのため、総合物流施策大綱会議が積極的に介入して解決していく必要があると考えています。
総合物流施策大綱会議は、国土交通省だけでなく経済産業省や農林水産省、内閣も属している組織です。この組織が一丸となって協力することで、国土交通省だけではカバーしきれないさまざまな方面から物流に対するアプローチが可能になると感じています。
例えば、トラックドライバーは人手不足とは言われる反面、実際の稼働率は低く30%程度であるともいわれています。なぜならば「物流センターでの待ち時間が長い」という課題を抱えているからです。最大6時間待つという話も聞きます。
なぜそのようなことが発生するかというと、以下のようなケースが商慣習として常態化しているためです。
・荷主側がパレットではなく手積み・手下ろしを行っている
・食品の場合、賞味期限をすべてチェックして入力しなければならない
・全て正しいか否か、受け入れ側に確認してもらわなければドライバーは帰ることができない
国際物流では、パレットに何が載っているのか事前に登録し、コードをスキャンするだけで調べられるパレット管理システムが業種問わず採用されています。しかし、国内ではほとんどこの形式は取られていません。
例外の企業もあります。例えば、Amazonは国際標準をそのまま日本国内でも採用しています。ただこれは「国際標準」とは呼ばれていません。「Amazon標準」と呼ばれています。これが日本の物流の非常に悩ましいところです。
セッション中もお話ししましたが、こういったやり方を業種を超えて標準化していくということが極めて重要だと私たちは考えています。そのため、経済産業省や国土交通省を筆頭にそういった委員会がつくられてこれから強力に推進されるのではないでしょうか。
髙田様:我々も頑張らなければいけないなと感じているところです。まさに運送事業者だけではなく荷主側も一体となって一丸となって取り組む必要があります。先ほどもお話しにあった通り、まさに標準化が進んでいないことでさまざまな問題が発生しています。
荷物や規格がバラバラであることで手積み・手下ろしの時間が必要以上にかかってしまうことで作業量の増加やドライバーの方への負担増にもなっています。また、倉庫保管の際にも重荷になってきます。一連の物流の流れをきちんと理解した上で、改善のための努力を粘り強く皆で行っていく必要があります。
標準化の懇談会を今年2021年6月に立ち上げて、今は分科会として進めています。まさにこれから加速させていきたいと考えています。
KPIを達成することによってどのような効果が得られるのでしょうか。また、どのような事業者が対象となるのでしょうか。また、達成した際の優遇措置なども国として検討しているのでしょうか。
髙田様:KPIはさまざまな有識者の方に意見をいただきながら作成し数十個にわたります。
項目によって対象事業者が異なり、物流事業者はもちろんですが荷主企業、また行政も一緒に取り組むべきものもあります。物流に関わる幅広い層の方においてこの目標を達成していただきたいと思っています。
どのように効果が現れるのか、という点についてはDXの将来像ということにもなっていきます。また、その生産性も格段に向上させることにつながります。こうした環境改善をすることで物流の位置付けを高めていく、このことがKPI達成することによって描ける姿だと考えています。
藤野様:このKPIは画期的な試みだと思います。このKPIは誰が責任を持っているのか、これを実施するために補助金を出すのか、などまさに総合物流施策大綱会議でもありました。結論とすると、この目標は総合物流施策大綱をご覧になったすべての皆様の共通の目標です。
すべて政府ができませんし、補助金を出して解決するという話でもありません。ただ、目標の期限を決めて、このくらいの割合をするんだという合意を得ることができたということです。したがって真剣に議論をしなければいけません。たとえば荷主企業、卸企業、それぞれの言い分がありますが立場が違うと当たり前だと思っていることがそうではないこともわかってきます。
「総合物流大綱」はこのような議論を本気で議論するためのメッセージだと捉えていただければと思います。
物流業界の次の大きな課題として脱炭素があります。例えばパレット等の標準化が浸透しないが故に、効率化が上がらずCO2が削減されずに増えることなどもあると思います。セッションの中でも、モーダルシフトのお話しで一部取り上げられていましたが、具体的に脱炭素に向けてどのような取り組みに対して議論されているのでしょうか。
髙田様:まさに、総合物流施策大綱を作っている最中である、2020年10月の時点に2050年までに46%の温室効果ガスを削減するという大きな政府目標が定められました。総合物流施策大綱でも大きな課題だと認識しています。
本日2つのセッションでもお話しさせていただきましたが、モーダルシフトといったように新たな技術の発展により、陸空海それぞれの分野で技術開発をはかることで実現が近づくのではないかと思っています。例えば、このような例があげられます。
【例】
このようにあらゆる局面において、脱炭素も総合的に進めていかなければなりません。
現在、温暖化対策基本計画というものを政府が審議し、パブリックコメントを受け付ける段階に今後なってきていきます。この中で運輸部門のひとつの案として、2030年までに2013年と比べて35%の温室効果ガス削減達成という高い目標をもって取り組んでいきたいと考えています。
直接的な脱炭素への取り組みの項目だけではなく、パレットなどの標準化を通してドライバーの待機時間を減らすことでCO2や有害物質の発生を防ぐなど間接的に貢献することができます。そのため、この総合物流施策大綱に記されていることを総合的に実行していくことで、より脱炭素の高い目標ぬ向けて邁進していきたいと思っています。
藤野様:セッションの中でお話しした「フィジカルインターネット」はCO2削減効果の一助も担っているのですが、その先に何があるのかというお話をしましょう。
例えば食品の場合、まずは食品の工場がありそこで生産され、併設された倉庫にパレットで保管されています。それらの生産品を東西2拠点の物流センターに輸送し、地域の物流センターにパレットやケース(段ボール)、時には混載で運び入れます。そして地域の物流センターから卸の汎用センターにピッキングしてケースで持っていき、卸の汎用センターから小売の汎用センターに積み替えて運びます。さらに小売の専用センターでバラピックを行って小売業の通路別・棚別納品をするといったことが行われています。さらに、そこでお客様ネットスーパーで依頼があった場合は、バラピックを行ってカゴに入れてお客様のところに持っていく必要があります。
日本国土はそんなに広いわけではありません。その中で何回トラックが行き来しているのか気になりますよね。フィジカルインターネットの先は、物流のクラウドサービスになっていくのではないかと私は思います。
それを先程の例に当てはめると、工場から出荷される際に物流のプラットフォームに登録する、ただそれだけです。あとは、消費者の方もしくは小売店でオーダーごとに持っていきます。
何を言いたいかというと、メーカーから消費者の手元に届くまで、所有権を移す必要はないということです。荷姿がただ変わっているだけなんです。それであればモノは動かさずにひとつのプラットフォームで管理し、一括して機能を提供することで最小限の移動に抑えることができます。日本の技術力があれば実現できるでしょう。すると、トラックの価値も上がり、CO2も削減されます。
情報の世界で最適化ができれば、究極の未来として実現できるはずです。こういった話を皆さんと早く実現して、早く世界に展開してみてはどうかなと期待しています。
デジタル、生産から販売などの計画、受発注そして物流まで考えられる高度物流人材の育成が急務だと感じていますが、どのような支援や対策をされているのでしょうか。
髙田様:
物流DXを推進するにあたり、まさに人材育成は課題だと考えています。しかしきちんと現場の課題がどこにあるのかをきちんと把握した上で、物流産業が将来的にどのような方向性に向かっていかなければならないのかをはっきり捉える必要があります。そして、定めた方向性に向かうために必要な人材を、的確に育てていくことが求められます。そのためには、若手の方だけではなくリカレント教育を含めた人材の育成が必要でしょう。そのためには学ぶ機会を提供することも我々の役割だと思っています。サプライチェーン全体を俯瞰した上で判断できる人材をどのように育てていくのか、皆様の意見をいただきながら物流に関する人材の確保に努めていきたいと考えています。
藤野様:
物流に関する人材については、2021年4月に 高度物流人材シンポジウムがあり話をしていました。
Apple.Incやウォルマートと知った欧米企業のCOO(Chief Operating Officer:最高執行責任者)は、サプライチェーン部門をマネジメントした後にCOOになるといった登竜門になっています。経営をもっとも良く理解できるのは、サプライチェーンマネジメントのダイレクターです。これが世界の常識になりつつあります。韓国、台湾、香港、シンガポールといったアジア諸国もそうです。欧米のハーバード大学やマサチューセッツ工科大学(MIT)をはじめとするビジネススクールがすでにそうなっているのです。
なぜなら、それを日本が教えたからなのです。ことの初まりは1980年代にトヨタが米国カリフォルニア州に進出した際に「オペレーションズ・マネジメント」業務の設計能力、管理能力が企業の盛衰を決めるといったことを教えたのです。それで大統領令が出て、ビジネススクールに新しい科目ができました。それが「プロダクション&オペレーションズ・マネジメント」です。アメリカには講師が1万人います。ヨーロッパに5000人。世界中のエリートがそこに行って勉強するのです。日本を除いては。
日本ではこの「オペレーションズ・マネジメント」があまり教えられていません。なぜならば、誰も教えてくれないからです。
この理由は少し複雑で、日本が発祥であるが故に「すでに完成した考え方だ」と思われているからこそ、あらためて広まりにくくなってしまっているというパラドックスがあるためです。
世界ではこの分野の話題は非常にホットなトピックスになっており、投資家の注目度の高さや新しいビジネス、スタートアップ企業がどんどん生まれています。日本にいるとわからないくらい、情報格差があるということを認識しておくべきでしょう。
ぜひ、日本もビジネススクールを作りオペレーション・マネジメントの講師をたくさん育てていただきたいと考えています。それこそが、デジタルトランスフォーメーション(DX)において日本が勝つためのもっとも重要なポイントではないかと感じています。
司会:本日はあらためて貴重なお話をありがとうございました。