今、世界中の企業は経験したことがない規模・スピードで生じている環境の変化への対応が求められています。コロナ禍で外部環境が大きく変化し、またSDGs、ESG投資など企業経営に求められる価値も大きく変わろうとしています。
物流業界は社会のインフラとして長らく発展してきましたが、新型コロナへの対応に加え、プラットフォーム型企業の参入や、革新的なテクノロジーの誕生など、数十年に一度ともいえる大きな変革期を迎えています。今年6月には、政府が総合物流施策大綱を閣議決定し、物流業界のデジタルトランスフォーメーションに向けた方向性が強く打ち出されました。
今回の連載は、「物流が変われば、社会がサステナブルになる」というテーマでお届けしていきます。商社という生業の中で管理・改善に努めてきたサプライチェーンを、倉庫、輸送、ラストマイル、2次流通の視点に分け、直面する課題やグローバルなトレンドについて解説していきます。
「新型コロナで物流クライシス」「海上輸送が大混乱」「自然災害で物流ライフラインが分断」
近年、物流に関連したニュースを目にしない日はないといっても過言ではありません。Googleの物流に関する検索結果数は、2018年には6万件程度でしたが、直近1年間は27万件と4.5倍に増えており、関心はますます高まっているように感じます。
物流が大きな機能を担うサプライチェーンでは、その持続可能性が課題になることが多くあります。2021年に最も印象的だった出来事は、スエズ運河の座礁ではないでしょうか。スエズ運河は、地中海と紅海を結び、ヨーロッパとアジアを結ぶ海上輸送の要衝となっている場所です。3月に大型のコンテナ船が座礁し、300隻以上の船舶が前後に滞留。食品や消費財だけではなく、製造などのサプライチェーンにも大きな影響を与えたのも記憶に新しいと思います。
そもそも物流は、商品を保管し配送することで、消費者の購買活動や企業活動を支える重要な役割を担っています。倉庫で商品を格納したり仕分けしたりする作業やトラックによる配送は、エッセンシャルワーカーによって支えられています。しかし、コロナ禍にともなうワークスタイルの変化にともない、物流を担う企業にとって、現場のワークスタイルの変革が大きな課題となりました。
また、2015年の国連のサミットで採択された持続的な開発目標である「SDGs」の達成が求められたり、環境・社会・ガバナンスを意識したESG投資が主流となったりと、物流業界を含むすべての企業の経営に求められる価値は、大きく変化しています。さらに、革新的なデジタル技術によって、既存の事業体は大きな変化が求められるなど、デジタルトランスフォーメーション(DX)の主戦場となっています。
これまでにない環境の変化が押し寄せる今、物流に求められている役割期待は根底から変わろうとしています。商品を保管し配送するだけではなく、
・万が一に対応しやすい柔軟性
・長期的に持続可能な労働力やアセット
・安心安全で、環境負荷の少ない物流手段
が求められており、将来像として物流の持続可能性、つまり「サステナビリティ」に収斂されると、我々は考えています。
サステナブルな物流を実現するため、多くのグローバル企業が新たな物流戦略を構築し、投資や活動を強化させています。
グローバルを代表する物流企業である独DHLは「2030年迄に環境分野技術に約9000億円を投じ、車両の6割を電気自動車(EV)にするなど排ガス削減する」と発表しました。
また、世界最大の小売企業である米ウォルマート社は、通販事業を拡大する中で消費者の利便性と作業環境の向上を目的に「物流施設の自動化などに140億ドル(約1兆5,000億円)を投じる」としています。
アマゾン、イケア、ユニリーバは、「2040年までにZero Emissionの海上輸送を目指す」と発表しています。
これらのグローバル企業はいち早くサステナブルな物流に転換していく戦略を掲げていますが、一方で、日本企業は、ある課題に直面していると、私たちは考えています。それは、物流の「需要と供給のギャップ」です。
物流の需要は、Eコマース市場が拡大し荷量が増え、消費者の購買行動が多様化していることで大きな波動をもっています。また運び方は小口化することで配送ルートが複雑化し、再配達問題や返品対応への課題を抱えています。一方、物流の供給は、人による労働力とトラックや倉庫などのアセットによってキャパシティ、つまりサービス提供できる上限量が決まります。大きく変化する物流需要に耐え切れず、物流供給が危機的な状態になり、一時的に供給が途絶えてしまう事象が増えています。
この供給側の課題には、少子高齢化にともなう労働力の減少、サプライチェーン上のムリ・ムダによる物流アセットの非効率さという2点があります。
この問題を根本的に解決するためには、配送や倉庫作業の自動化が必要になります。従来は機械化が主流でしたが、今は自動運転や倉庫ロボットなど、ソフトウェアを活用した自動化が主流になってきています。機械化や省人化ではなく、柔軟に設定できるソフトウェアと、シンプルなハードウェアが融合した自動化によって、輸送や作業の労働力を増やすことが可能な時代に入っています。
また、日本独自の課題として「属人化」があります。お客様の声を基にしたカスタマイズを重ねすぎることで、人に依存した非効率な作業やオペレーションになっていることがあります。自動化は人による作業を標準化していくこともできるので、属人的な作業を誰でもできる作業に変えていくことが可能です。
通常、トラックによる輸送や配送で発生する二酸化炭素排出を抑えて脱炭素化を進めるには、トラックのEV化という解決策があります。しかしそうした車両を取り換えるような技術的な解決の前に、実はサプライチェーン上には物流アセットが固定化し、ムリやムダが発生したことによる余分な配送が発生していることが多くあります。
・「予測が外れ余剰な販売在庫を抱えてしまった」
・「全国への店舗の分配がうまくいかず、エリアによって在庫にばらつきがある」
・「得意先だけ配送ルートを特別に組み、荷台に空きがある状態でトラックを走らせている」
このようなムリ・ムダによる物流アセットの非効率な使い方によって、輸送や配送による二酸化炭素排出を増やしている原因になっています。
日本における物流リスクが顕在化する中、政府は2025年に向けた指針として「総合物流施策大綱」を今年6月に閣議決定しました。従来の大綱とは大きく異なり、新型コロナウィルス流行による環境の変化に加え、テクノロジーを活用したデジタルトランスフォーメーションの指針が強く打ち出されています。
ポイントは3つありますが、官民一体となり実現していくため、新しく大綱の代表的な指標(KPI)が定められており、コミットが感じられる内容になっています。
詳細は国交省のHPで公開されていますので、ぜひ物流に関係する方は、荷主、物流企業問わず、ご覧ください。
ここまでサステナブルな物流の実現に向けた課題やトレンドをご説明してきましたが、三菱商事でも挑戦を行っています。
物流の供給側の課題である「労働力」と「ムリ・ムダ」を解消し、物流およびサプライチェーンの持続可能性を高めることをミッションに掲げ、倉庫、輸送、ラストマイル、2次流通といった各サプライチェーンのセグメインとで新たなサービスをご提供しています。
本連載では次回以降、以下のように各セグメントの課題感やトレンドをご紹介していく予定です。
◯シェアリングエコノミー×倉庫市場 倉庫を動かせる世界とは?
◯デジタル化で実現する、サステナブルな輸配送
◯お客様への最後の接点 ラストワンマイル配送の挑戦
◯X次流通市場を活性化し、社会をもっとサステナブルに